【リグミの解説】
「成長戦略」の評価
安倍政権の「成長戦略」の全容が明らかになりました。標語を並べると、第1弾「女性の活躍」、第2弾「世界で勝つ」、第3弾「民間活力の爆発」―となります。新聞各紙はどう伝えているか比較します。
読売:
・ 1面「『民間活力の爆発』」
・ 総合面「『勝てる経済』目指す」
・ 社説「民間活力の爆発で日本再生を」
・ 経済面「国内の設備投資、促進」
新聞を挙げてアベノミクスを応援する紙面構成です。安倍首相の発表後、株価が急落したことなど、ネガティブな情報や「成長戦略」の問題点の指摘はほとんどありません。読売だけ読んでいると、アベノミクスを進めれば良い、という単線思考になりがちです。より多面的な紙面構成が求められます。
朝日:
・ 1面「高い目標、実現不透明」「失望売り、東証518円安」
・ 2面「迫る選挙、目玉選びに腐心」「市場、アベノミクス懐疑も」
・ 7面「難題は積み残し」「船頭多すぎ…混乱招く」
・ 社説「緩和頼みではもろい」
「高い目標は掲げられたが、実現に向けての具体策に乏しく、市場は懐疑的、選挙対策の面があり、船頭多く矛盾した内容にもなっている」―というニュアンスで、読売の対極の姿勢です。朝日だけを読んでいると、アベノミクスは間違っている、ないしはうまくいかないという印象に傾きます。アベノミクスのプラスとマイナスを客観的に比較する記事があると、より全体観が得られると思います。
毎日:
・ 1面「特区で投資呼び込み」
・ 総合面1「東証大幅安、素案『小粒で総花的』」
・ 総合面2「難所先送り、迫力不足」「参院選前、配慮余儀なく」「法人税や農業、及び腰」
・ 社説「風呂敷広げただけでは」
全体として問題点と懸念を中心とした報道という意味では朝日と近似していますが、1面では「特区」に注目し、解説では「法人税や農業」の問題を指摘するなど、より具体的に論点を明示しています。毎日の印象も朝日に近いですが、アベノミクスを改善すればより効果的になる可能性があるという印象を得ます。
日経:
・ 1面「日経平均、終値518円安」
・ 総合面1「『迫力不足』市場に広がる」
・ 総合面2「成長戦略、高い目標並ぶ」
・ 社説「成長戦略の目標ばかり踊っていないか」
5月末に株価が急落した当初、日経は「実体経済は底堅く株価は調整局面」とし、株式のプロとしての冷静な判断を示し、センセーショナルに扱った他紙と距離を置いていました。しかし、出そろった「成長戦略」は実現のための具体策に乏しく、長期投資家を市場に呼び込む力が不足していると指摘しています。日経を読むと、物事はお題目だけではダメで、政府でも企業でも、戦略や戦術を具体化し、工程表に従って粛々と実行することが第一と実感します。
東京:
・ 総合面1「経済再生、乏しい新味」
・ 総合面2「『150万円増』錯覚招く」
東京新聞は、GNI(一人当たり国民総所得)はGDP(国内総生産)と違って「国外」の経済活動も含むため、経済規模を大きく見せられる効果があること、「所得」という言葉で誤解を与えるが、企業も個人も「国民」とみなす指標のため、個人の所得増に直結するわけではない、と解説しています。全体として、国民、生活者の視点から、アベノミクスを批判的に報道しています。東京新聞は、他紙と違って、庶民の目に徹していますので、暮らしへの影響が分かりやすい内容となっています。
「期待」が先行するアベノミクス
アベノミクスの特徴を端的に表現すれば、「期待」です。GNIという耳慣れない指標が出たとき、それが「個人の所得」に近い意味合いの指標と想定し、「リグミの解説」をしましたが、その後の報道などで、GNIと「個人の所得」は別物とわかりました(昨日の解説は、「GNI=個人の所得」という前提で書いており、不正確な面があったことをお詫び申し上げます。参照:「
リグミの解説」6月5日)。
「国民総所得が150万円増える」と聞いて、最初に浮かんだのが池田内閣時代の「所得倍増計画」でした。安倍首相も「所得」という言葉が生み出すイメージを重視したといます。高度成長期に年収がどんどん上がった時代の再来を「期待」する効果を狙ったのかもしれません。
「期待」とは「将来それが実現すればいいと、当てにして待ち設けること」(広辞苑)です。株式市場は、人々の「期待」がお金という一番わかりやすい指標で集合する場です。株式市場の主役が短期投資家から長期投資家に変われば、アベノミクスへの「期待」は本物になったと言えます。現在はまだそこまで行っていません。
「期待」から「現実」へタスキ掛け
では、長期投資家の「期待」に応えるにはどうしたらいいか。いや、投資家だけでなく、内外の企業が日本経済の再生は本物だと期待し、国民もその期待を共有して経済活動や消費活動を活発化するためには、何が必要でしょうか。それは「標語」に掲げられたことが、個々の現場で一貫して実現されていくことです。政府が言うことは「絵に描いた餅」ではなく、「食べられる本物の餅」だと実感することです。
「期待」を「現実」に転換するためには、あらゆる関係者が方向性を一致させ、目標に向けてひた走る必要があります。それは、駅伝のタスキ掛けのようなものです。タスキに込められたものを大切にし、タスキをつないで完走し、駅伝に優勝してほしいと願う多くの人々の「期待」に本気で応えるチームが、今の日本にあるでしょうか。そもそも、このタスキは誇りをもってかけられるものなのか。すべての当事者が自問自答し、行動化する必要があるテーマです。
(文責:梅本龍夫)
- 【政府広報】 「『民間活力の爆発』 アベノミクス、第3の矢 投資や医療、規制緩和 成長戦略固まる 失業、5年で2割減」
http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/news/20130605-OYT1T01176.htm?from=ylist - 【政府広報】 「赤ちゃん最小103万人 2012年統計 出生率は微増1.41」
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20130605-OYT1T01065.htm - 【政府広報】 「ストーカー規制、メールも 法改正案 自公、議員立法で提出へ」
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20130605-OYT1T01571.htm?from=ylist
(YOMIURI ONLINE http://www.yomiuri.co.jp/)
- 【独自取材】 「民活活力、成長の柱に 高い目標、実現不透明 安倍政権、戦略第3弾」
http://www.asahi.com/politics/update/0606/TKY201306050557.html - 【独自取材】 「東電賠償1万人未請求 来秋以降、時効の恐れ」
http://www.asahi.com/national/update/0606/TKY201306050567.html - 【独自取材】 「失望売り、東証518円安」
http://www.asahi.com/business/update/0605/TKY201306050256.html
(朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/)
- 【政府広報】 「特区で投資呼び込み 『第三の矢』 成長戦略素案」
http://mainichi.jp/select/news/20130606ddm001020026000c.html - 【政府広報】 「出生率1.41回復 16年ぶり水準 30代以降上昇 出生数は減少」
http://mainichi.jp/select/news/m20130606k0000m010073000c.html - 【政府広報】 「補助園児30万人 文科相ら 第2子半額を検討」
http://mainichi.jp/select/news/m20130606k0000m040128000c.html
(毎日jp http://mainichi.jp/)
- 【政府広報】 「センター試験廃止へ 複数回の新テスト 高2から学力把握 文科省検討 5年後メド抜本改革」
http://www.nikkei.com/article/DGXNASDG0505N_V00C13A6MM8000/ - 【政府広報】 「出生率16年ぶり1.4超 30代伸びる 出生数は最低」
http://www.nikkei.com/article/DGXNASFS0504T_V00C13A6MM8000/ - 【連続企画】 「地域の挑戦阻む『亡霊』 地産地消、進まぬワケ ~規制、岩盤を崩す エネルギーの明日へ2.」
http://www.nikkei.com/article/DGKDASDF3100A_R30C13A5MM8000/
(日経Web刊 http://www.nikkei.com/)
- 【独自取材】 「高速道、借金返済先送り 10~15年 根拠あいまい 国交省方針 2050年無料化もう断念」
http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2013060602000128.html - 【連続企画】 「個人の権利より国家 ~検証・自民党改憲草案―その先に見えるもの2.」
- 【政府広報】 「出生数最小103万7101人 16年ぶり水準 出生率は1.41に上昇 12年人口統計」
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2013060501001649.html
(TOKYO Web http://www.tokyo-np.co.jp/)
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