2013.03.20 wed

フクシマ・センダイ・カルイザワ それぞれの地で考えること(第6回) 

フクシマ・センダイ・カルイザワ それぞれの地で考えること(第6回) 


髙木 亨
 
おもいでかえる


写真1 展示会場の様子
 
 仙台市に「おもいでかえる」というボランティア団体がある。仙台市沿岸部(宮城野区・若林区)で、津波に流された物の中から拾われた写真などを洗浄し、持ち主に返す取り組みをおこなっているボランティア団体である。カミさんが仙台に来るにあたり、何か地域に貢献したい、ということで見つけたボランティア活動の一つである。

 震災の年に仙台市が中心となってはじめた活動で、2011年度で終了する予定であった。しかし、50万枚におよぶ写真が残っていたこと、海水に浸かった写真類は洗浄しないと朽ちてしまう、ということで、ボランティア有志が結成してできたのが「おもいでかえる」である。2012年度は、市当局から離れ、活動費や作業場の確保など苦労しながら活動を続けている。


写真2 壁一面に貼られた集合写真

 カミさんは昨年12月から通いだした。カミさんがボランティアに出かけた日の晩ご飯の話題は、日々の作業やボランティアの方々の話で盛り上がる。そこからは、数多くのボランティアが「写真を持ち主に返したい」という想いで集まり、作業している姿が見えてくる。地元の方が中心ではあるが、中には遠隔地から夜行バスで来ている方もいる。平日のみ、週末のみ、様々である。一日でもできるボランティアなので、多くの方々が携わっている。

 また、多くのボランティアに指示を出し、まとめているリーダーの存在にも感心させられる。何人ボランティアが来るかわからない中、やって来たボランティアの数と経験に応じて指示を出す。また、毎日同じ人が同じ作業をできないというボランティア特有の考慮が必要など、会社組織とは違う考え方が必要なのだと改めて知らされた。


写真3 展示台に配置された写真アルバム

 地道な作業を続けているなか、洗浄した写真類を持ち主に返すための展示会があるというので、出かけてみた(2013年3月1日〜11日)。会場は、仙台市沿岸部に住んでいた方ならすぐわかるサンピア仙台。披露宴会場だった場所に展示台がぎっしり並べられ、壁にまで写真が貼られていた。大きな写真、集合写真、拾われた場所に分けられたスナップ写真など、持ち主にとってみればとても大事な写真たちが並んでいた。別なコーナーでは、名前がわかる賞状や、拾われたランドセルなどの物品、破損がひどくて洗浄が難しい写真も展示されていた。

 会場には、写真を真剣に探す方々。見つけた写真をしっかり抱えた方、そこに寄り添うボランティア。久々に再会した方同士で談笑する姿…様々な姿をみることができた。この場所は写真を探すためだけではなく、震災前のご近所さんとの再会の場でもあった。また、知り合いの写真を見つけて連絡を取りあう、再会のきっかけ作りの場でもあった。展示会は写真を見つけてもらうだけでなく、人間関係も見つけてもらう場なのだと実感した。わずかな滞在時間であったが、写真洗浄を通じたボランティアが果たす役割の大きさに気づかされた。


写真4 全国から寄せられた支援者一覧

 展示会のボランティアにも加わっていたカミさんからは、見つけられなかった方の話や、亡くなった方の写真が見つかった話、写真を探しにきた方がボランティアに対して問わず語りでいろいろな話をしてくれた、など多くのエピソードを教えてもらった。また、写真が見つかり持ち主から「ありがとう」の言葉をボランティアの方々がもらえる事で、自分たちのやってきた写真洗浄作業が完結し、次に繋がっていくのだと実感した。

 「おもいでかえる」のホームページによると昨年度は一ヶ月と長期の展示会であった。戻した写真は約5万枚。今年度はわずか11日間で約4万枚の写真が元の持ち主に帰っていった。来場者数は昨年度を上回った。東日本大震災から2年、写真に向き合えるだけ時間が経過したのだと思う。それととともに、砂まみれではなく、綺麗な姿に写真類を甦らせたボランティアの力は大きい。

 被災された方には、まだ、写真と向き合えない方も多いと思われる。将来向き合えるようになった方のためにも、このような活動の継続はとても重要である。また、写真を探す方のコミュニケーションの場を確保する上でも大事である。「おもいでかえる」は寄付金で運営されている。市からの補助金は入っていない。今回の展示会の会場費も全額負担している。市との関係からなのか、展示会場には募金箱がなかった(展示会の主催は仙台市、写真類は仙台市消防局に所有権があるという)。また、この3月末には、無償で借りている現在の作業場の契約が終えるため、4月以降の活動場所も今のところ未定である。先の見えない中、良い方向に向かうことを期待したい。
 

写真5 写真が見つかった人たちの声

 最後に、活動の主旨に賛同していただけられるのならば、ご支援をお願いしたい。
 
震災復興ボランティア団体おもいでかえる ホームページ:
http://www.omoide-kaeru.com

こちらには、日々の活動報告、展示会の様子などの情報が掲載されている。ぜひご覧頂きたい。


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著者プロフィール

髙木 亨(たかぎ・あきら)

福島大学うつくしまふくしま未来支援センター特任准教授
博士(地理学)、専門地域調査士。
東京生まれ、東京近郊で育つ。
立正大学で地理学を学ぶ。
立正大学、財団法人地域開発研究所を経て2012年3月から現職